「ミスト コレクターズ・エディション」を購入。実際何度も観たい映画というわけではないけど、白黒バージョンがどうしても観たくって。ダラボン自身はもともとこの映画をモノクロで撮りたいと思っていたらしい。白黒本編が始まる前に、ご丁寧にそのあたりを語る映像も収録されている。
結果から言うと、確かに白黒最高! これを「私個人のディレクターズ・バージョンとしたい」というダラボンの気持ちもよく分かる。内容はカラーも白黒も全く同じ(なはず)。しかし、受ける印象はかなり違う。
乳白色の霧の不気味さがより強調される。色による区別がつかないので全体が不明瞭になる。けばけばしい原色があふれるマーケット店内でもそうだし、バックヤードはもうパレットもドッグフードの袋もなんだかわからなくて怖さが一段とアップ。「ハイビジョンだとかブルー・レイの時代かもしれんけど、なんでもハッキリ見えすぎたらええっていうもんじゃないんやな」などど、キング・ファンらしからぬことを口走ったり。それと白黒だと無意識の内にに古い映画を観ていると錯覚してしまい、「ああこの特撮よくできてるなあ・・・・あっ、これCGやん!」みたいなことに。それでカラーのほうよりもモンスター達に対する点数が甘くなってしまう。
なによりもダラボンが、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」やハリーハウゼンの古い映画を引き合いに出しているように、そうした映画への愛情やオマージュがよりダイレクトに感じられるようになっていることがいい。私がこの映画を最も高く評価している理由は、描こうと思えばもっとシリアスな人間ドラマに絞ることもできるのに、嬉々としてB級なモンスターを登場させること。それはキングの原作にも、もちろん「霧」だけでなく多くのキング作品に共通する特質だから。まったく、モンスターや異世界が嫌い、スーパーナチュラルなものを受け入れられないようなやつはキングなんか読むなよ・・・・・話がそれたけれど、メイキングでの「タコ足」を首に巻きつけるダラボンの嬉しそうなこと! いままで散々悪口言ってきたのに、あの絵だけでいっぺんにダラボンが好きになってしまった。
そしてあのラスト、あれは燃費の悪い車(トヨタ車だけど北米向けだから)と、どこにでも銃のある、アメリカならではのローカルな悲劇だなあと・・・・違うか? それはともかく、あれをあまり深刻に受け止めなくてもいいのではないかと思う。だってメイキングやインタビューで、ダラボンの人となりを見ていたら、あのラストはテーマやメッセージ性云々というよりも、「思いつき」以外のなにものでもないと感じられるから。「ねえねえ、キングさん聞いて聞いて、これこれこんな結末思いついたんですけど、どうですか?? ねっ、いいでしょ? 観客はみんなびっくりすること間違いなしですよ、ワッハッハ」みたいなことを喋っている、いたずら小僧のような姿が目に浮かんでしかたがない。
それ以外にも、キング・ファン向けのツボとしては、火だるまになった人が倒すペーパーバックのラックに置かれているのは全部キングの本とか、映画の中で読んでる新聞は"Castle Rock Times"(これは本編でもはっきり確認できる)、メイキングで動いているバーニー・ライトスンを見ることができるとか。それと特典映像「ホスターアーティスト」にはドルー・ストルーザン本人も登場し、例の「暗黒の塔」っぽい絵もじっくり見ることができるけど、これはやっぱりいまひとつな感じ。ローランドがあの人みたいすぎる、塔が小さすぎる、ドアはそんな形じゃないだろうなどのツッコミはともかく、全体として、読まずにキーワードだけ聞いて描きましたみたいな雰囲気がするのが気に入らない理由かも。ちなみに「特製ブックレット」の表紙もストルーザン。
もちろん、キングのインタビューにダラボンとの2ショット・インタビューも。それにしてもキングさん、すっかりおじいちゃんっぽくなられて。ネットで見かける映像ではあまり感じないけど、DVDじゃあ、ね。まあ実生活でも本当におじいちゃんなわけだし。
最後にブックレットの中のキングの言葉を。
私はすべてが恐ろしい。エレベーターも、車もだ。私の作品を読めばわかるだろう?新しい本を書き始めるきっかけになるのは、経験した事件はもちろん、バックをしているトラックかもしれないし、壊れた警報器のミックスかもしれない。誰かが「危ない!」と言ったらそれだけで、長編小説の全体が出来上がるんだ。
おじいちゃんになっても、稀代のビビリは相変わらずのようで、ネタには困らず書き続けられそうでなによりです。
ミスト コレクターズ・エディション