小説の序文や解説なんて、5割程度差し引いて読むのが当然というものだけど、本書に限っては額面通りに受け取ってもかまわない。「キングの息子」ジョー・ヒル待望の初短編集は、予想も期待もはるかに超えた、とんでもない傑作だから。
本書を読みながら、きっと小さい頃から家の本棚にある(キングの本棚ですよ!)名作たちを読み漁っていたんだろう(『蝿の王』にはワロタ)、ビデオやDVDで映画のコレクションにも親しんだんだろう、一緒にレッドソックスの試合も見に行ったはずだし、「地獄のデビルトラック」や「クリーブショー」の撮影現場に遊びに行ったことがあるかもしれない、もしかしたらロメロが家に遊びにきたことがあるかも、なんてあれこれ想像してしまう。そうして薫陶を受けてきたことは間違いないはずだけど、父親とは違う独自のスタイルをしっかり築きあげている。簡潔で品があるのに気取りがない。「年間ホラー傑作選」なんて、かなりえげつないものを読んだという印象があるのに、実際には残酷な描写などほとんどない。もう長い間、ホラーといえばナスティなもの、饒舌なもの(ハハハ・・・)が多かったので、彼のスタイルは新鮮に感じられる。
父親の大きすぎる存在は、恩恵であると共に受難でもあったはず。それをよくぞここまでと、なんだか親戚のおっちゃんのような気持ちになったり。そういえば多くの作品で「負け犬」タイプが主人公なのは・・・このあたりはあまり追及しないほうがいいのかな。
先にもあげた「年間ホラー傑作選」、「挟殺」など、気に入った作品はいくつもあるけど、個人的には「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」が最高に好き。超有名ホラー映画の撮影現場が舞台という設定が素晴らしいし、そこでエキストラとして参加したことで偶然に再会したかつての恋人たちを通じて、人生の苦みとささやかな希望を描いたこの作品、ホラー好きだけに読ませるなんてもったいない。
本書には様々な版があるらしく、この日本版は全てを網羅した決定版になっているとか。全18編(でいいのかな?)、約700ページと質、量ともに充実した「10年に一度」級の傑作、血縁関係が無ければ、キングがどれほど褒めちぎっていただろうと想像せずにはいられないこの短編集を、ぜひ多くの人に楽しんで欲しいと心から願う。