少し前に「本の雑誌」を立ち読みしていたら、とじこみハガキに「あなたがこれはロックだと思う小説募集」みたいなのがあったので、書いて出そうかと思ったのに他のところをウロウロしている間に買い忘れ、ふと思いだして本屋に行ったらもう次号が出ていた・・・・・ということでここで書くことに。
ロックそのものを扱った小説として真っ先に思い出すのはルイス・シャイナーの『グリンプス』。これはヘタレな青年がタイムスリップして、ジム・モリスン、ジミヘン、ブライアン・ウイルソンなどに出会い、幻のアルバムの完成に協力するという内容。音楽ライターとして著名なビル・フラナガンの『A&R』は業界内幕もの。キングの短編「いかしたバンドのいる街で」は、死亡したロックスターたちが大挙登場するし、「スニーカー」は録音スタジオのトイレの幽霊譚。長編では各章の頭に車に関係する曲が引用されている『クリスティーン』は言うに及ばず、『ザ・スタンド』のラリー・アンダーウッドは典型的な70年代ミュージシャンだし、死んだロックスターのバンドというアイデアは『IT』にも出てくる。CCRを聞きながら車を運転する狼男が出てくるのは『タリスマン』、『骨の袋』でドン・ヘンリーの曲にあわせて踊るマッティーの姿が忘れられない、なんて書いていたらきりがないくらい、キングの作品はロックと縁が深い。お題が「ロックな作家」ということだったら一も二もなくキングを推すところなんだけど。そういえば息子ジョー・ヒルの『ハートシェイプ・ボックス』の主人公もロック・ミュージシャンだ。前述の「いかしたバンド~」が収録されている『ショツク・ロック』は、ロックをテーマにしたホラーの短編集で、両者の相性の良さを感じさせてくれる。
キングに次ぐロックな作家といえばニック・ホーンビィかな。『ハイ・フィデリティ』にも『アバウト・ア・ボーイ』にも音楽が溢れかえっている。国内だったら、古川日出男の『ロックンロール七部作』とか、桜子と椿子の存在そのものがパンクな『裸者と裸者』とか。こんな調子でウダウダ書いていても終わらないので、自分にとって「ロックな小説」を海外編、国内編それぞれ一冊選ぶとしたら・・・(長い前置きやなあ)
海外編は、ポール・ウエラーの愛読書としても知られるアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』で決まり。音楽とは全く関係ない話でロックの精神(汗)について書かれた本、なんて読み方もできる。私的には『ライ麦畑』より断然こちら派。この作品だけではなく、『土曜の夜と日曜の朝』 や、タイトルだけでKOものの『屑屋の娘』なんかももっと読まれたらいいのにと思うけど、絶版のものもあるようで残念。
国内編は誼阿古の『クレイジーフラミンゴの秋』。以前紹介した
『クレイジーカンガルーの夏』の姉妹編。主人公の中一の女子の気持ち、暮らしに音楽がぴったりと寄り添っていて、ああ、自分もイライラ/もやもやした気分の時や、一音たりとも聞き逃すまいとしてヘッドホンで爆音で聴いていたなと遠い目になったり。今、イヤホンでiPod聴いてるのとは全然違うんだよなあ。巻末には作中で使った曲の一覧があり、これを見ただけでも作者の音楽理解度やセンスは只者ではないと感じられるはず。だってホール&オーツで「イッツ・ア・ラーフ」ですよ。これとか「バイシクル・レース」や「ナットロッカー」が放送でかかる中学校って、それだけでも悶絶ものなのに、合唱コンクールでの「ピアノマン」の場面なんてもう・・・・・全音楽好きに自信を持ってお勧めできる一冊。
「本の雑誌」の「ロック特集」は次号。さて、どんな本が選ばれるか楽しみ楽しみ。やっぱり日本の作家だと
山川健一なのかなあ?