意地悪 - この本を一言で表すとしたら、この言葉が最適だろう。先ず出版形式が意地悪だ。ご存知のように、『ダークタワー』シリーズの帯に付いていた応募券を送れば1万人に当たるというもので、一般には販売されない。キングの意向だか契約の都合だか販売促進だか大人の事情だか知らないけれど、結果として読みたくても手に入らなかった人も出てくるし、それが
ヤフオクでの高騰に繋がったりするわけで。誠に意地悪というか、罪作りな本と言うしかない。
内容のほうもまた意地が悪い。
シリーズの一冊なので、かなりダークな犯罪小説かなと思っていたら、未解決の謎に満ちた事件をめぐる推理もの風な展開。キングにしては珍しい本格的な(スーパーナチュラルな要素が少しでもあると拒否反応を起こしてしまうような読者にも安心して薦められるような)ミステリーかと思いきや・・・・
キング自身によるあとがきでは、この作品は中間領域なしに「お気に召すか、腹立たしくてならないか」のどちらかに分かれると書かれているけれど、実際に本書を入手し、読まれたのはかなり熱心なキング・ファンが多いと思われるので、「腹立たしい」派は少ないのではないだろうか。キングはクーンツのように「物語は人生に秩序や意味を与え、希望を生み出すもの」というような作風ではないことを知っている人たちならば、むしろ「やりやがったな」とニヤリとしているかもしれない。
キング的観点からすれば、あまりに合理的過ぎる一般的なミステリーに対する批判的な雰囲気と共に、クーンツのような「ハッピーエンド作家」ではないにもかかわらず、エンタテインメント系の作家として、常にカタルシスを求められることに対する苛立ち-口を大きく開いて待っていればエサを与えてもらえると思っている、受動的な読者に対する不満も込められているようにも感じられた。
全体の雰囲気としては
sakanapoさんも書かれているように『ビュイック8』に近い、というかあれの無駄とB級要素を殺ぎ落とした感じ。『ビュイック8』もこれぐらいの長さで済んだんちゃうの? と身も蓋もない思いが頭をよぎる・・・。それと、若者キャラの男女が入れ替わっただけで、こんなに態度が違うのかよというあたりはご愛嬌ということで。
ただ本作のキングのあとがきは、読者の自由な解釈の余地を奪うほどに饒舌すぎ。解説もややおせっかい度が過ぎる感じなので、これから読まれる方はご注意を。それとオークション狙いの方は、くれぐれも早まることなく、値段が落ち着いてからの落札をお薦めします。