一角獣から鳳凰、ゴジラまで――。人はどこまで空想の翼を翔かせえたか? 神話・伝説、宗教、芸術が生んだおびただしい幻獣は、何を物語るか? 絶対の美、恐怖の極、珍妙笑止な獣など、人間の華麗な精神絵巻をひもとく。(表紙より)
現実の動物と空想の幻獣と、どちらがよりゆたかで、より創造的であるだろう。つまりは、より空想的であるだろう?
古今東西の幻獣蒐集の仕事にひと区切りつけたあと、ボルヘスは気がついた。
「夢の動物学は創造主の動物学よりずっと貧しい」
確かに本書で紹介されている幻獣たちは、上半身は人で下半身は何かの動物とか、「顔は人で胴はトラ、像の足に蛇のしっぽ」のような現実の動物たちのミクスチャーが多くて、人間の想像力の限界(*)を感じてしまう。
『ワンダフメライフ』や
『へんないきもの』を持ち出すまでも無く、創造主の圧勝である。だからあとがきにもあるように、「もっとも語りたかったのは幻獣そのものではない。これら奇妙な生きものを生み出した人間である」ということになるのだろう。
幻獣のカタログ的な「幻獣紳士録」の部分よりも、マルコ・ポーロ、カフカ、寺山修二、高井鴻山、小川芋銭などの個性豊かな人間たちをを描いた部分のほうがはるかに面白い。特に高井鴻山の「妖怪図」はいいなあ。ぜひ実物を見てみたい。この本、図版も魅力的なものが多いので、新書ではなくハードカバーだったらもっとよかったのにと思う。
(*)人間の想像力の貧困さをあらわす最たるものが「宇宙人」。地球とは全く別の環境で進化した生命が、人間と同じような姿になるわけないっちゅーの。