近未来の福井県の架空の都市を舞台とした、陰謀、裏切り、復讐(そしていくらかの愛)の物語。中国系、朝鮮系、ロシア系の難民、マフィアが入り乱れて犯罪が多発する状況設定は、戦時中でこそないものの『裸者と裸者』とほとんど同じ雰囲気。著者は現在の日本の、寝ぼけたような平和な時期はいつまでも続かないと思っているのか、別に日本の将来の姿を予測したビジョン的なものではなく、単に温い状況が小説の舞台にならないからこんな設定になるのか、どちらとも判断はつきがたいものの、それが魅力的であることだけは確か。
多視点、複雑な構成、中心人物の多重性、極端にドライな文体のせいで、それほど長くもないのに読むのにものすごく時間がかかる。意識的にわかりやすさを排除することで、読者を作品と真摯に向き合わせる意図があるよう。謎解きの面白さと、ばかげた理由をこじつけて暴力を正当化する人間のどうしようもなさ(特にそれが組織としてのものである場合の最悪さ)が描かれた、重量級の力作。ただ、私はこの作品で描かれているような世界に美学を感じないタイプの人間なので、読後感はやや寂しいものがあった。
日本じゃダメだと思うけど、香港か韓国で映画化されたらいい作品になりそう。