宮部みゆきの作品は7割ぐらいは読んでると思うけど、これほど困惑し、失望を覚えたのは初めてだ。キャラクターにも背景にも、ストーリー展開にも最後まで共感も没入もできず、カーテンの向こうを物語が通り過ぎてしまったような印象を受けた。彼女の通常の作品のレベルの半分にも達していないのではないかという気がする。
ご存知のようにこの作品は、彼女自身の希望によって、ゲーム「ICO」をノベライズしたものだ。、ゲームの製作者たちを失望させたくない、自分と同じようにこのゲームを愛する人たちに気に入ってもらえるような作品にしたい、本人によるあとがきにはそう書かれている。これは恐らく、自身の作品が何度か映像化された時に、苦い思いをした経験からくるのではないかという気がする。ゲーム「ICO」の世界観や精神を守ろうとする気持ちが働きすぎて、小説としての「ICO」は創造性に欠けた、スケールの小さい作品になってしまったのではないだろうか。
もしかすると宮部みゆきは、キューブリック版よりキング版の「シャイニング」の方が好きなのかも知れない。いくら映画として優れていても、原作をあそこまで蹂躙するのは許せないと思っているのかも。そんなふうに思わせる彼女の「いいひと」さかげんが、今回の失敗の一番大きな原因か。でもファンにとっては、そんなところがまた愛しかったりするんだな。
ICO -霧の城-