スミシー・アイドは43歳。体重126キロ。昼間は兵隊フィギュアの製品管理で退屈な時間を過ごし、夜は酒と紫煙とジャンクフードに身を浸して漫然と日々を送っている。そんなある日、両親が自動車事故で死亡。葬儀を済ませ、遺品を整理していた彼は、父に宛てられた一通の手紙を開封する。それは、20年以上も消息を絶っていた姉ベサニーの死亡通知だった。こうしてスミシーは、いっぺんにひとりぼっちに―。放心状態の彼は、実家のガレージで少年時代の自転車を発見する。タイアの空気が抜けているのに気づいた彼は、ガソリンスタンドに向かう。それが、姉の眠るLAにいたる大陸横断旅行のスタートとなることも知らずに―。心を病んで奇行に走りつづけた姉。そんな彼女に振り回されながらも温かく幸せだった家庭。記憶をたどりながらひたすら西へとペダルを踏みつづけるスミシーを、優しくも残酷なアメリカの人々はどう迎えるのか…。
キングが褒めたのがきっかけで、オーディオ・ブックだけだったものがめでたく本として出版されたんだとか。キングのお薦めでもなければ読まないタイプの本。普通にいい話系なれど旅のきっかけが悲惨すぎ。アメリカならではな感じの、ごく自然に滲み出すグロテスクさもあり。キング好きには馴染み深い地名がちらほら出てくることと、家族がレッドソックス・ファンなのがツボ。
でも、隣の幼馴染が「ドライビング・ミス・デイジー」の運転手並に主人公にとって都合がいいとか、なぜモテる?とかツッコミどころもたっぷり。文庫で千円ぐらいならともかく、単行本で2700円じゃあねえ、という感じ。図書館でどうぞ。
奇跡の自転車森田 義信