現在文庫版が毎月刊行されているキングの『ザ・スタンド』。『IT』の時のように、「箱入り」版が出るのかどうか文藝春秋に問い合わせたところ、返事を頂いた。
今回は、「箱入り」版は出ないとのこと。翻訳エンターテインメントものの売上げが著しく落ちていて、残念ながらそんな余裕はないという事だそうだ。
以前書店で箱入りの『IT』を見つけたときには、「文春さんも粋なことしてくれるな」と大喜びでレジに向かったことを憶えている。キングの作品を、ハードカバーを持っていても文庫も買うようになったのは、この箱入り『IT』がきっかけだった。実利ばかりを追わずに、一見無意味に見えることに手間と金をかける。それが文化を育てるのだと思うし、文春の出版社としての気概もその「箱」からは感じられた。(ちょっと大袈裟かな?)ただそれも売り上げ減少し、基礎体力が落ちてしまえば、心意気だけではどうにもならないのだろう。
まあ、『ザ・スタンド』の箱入りが出る/出ないはそれほどたいしたことではないのだけれど、「翻訳エンターテインメントものの落ち込み」は大いに気になる問題だ。音楽ならば日本盤が出なくても輸入盤を買えばおしまいだけど、小説の場合は(英語が堪能な方以外は)そうはいかない。売り上げが減少すれば市場が縮小し、翻訳される作品も減ってしまうので、素晴らしい作品に出会うチャンスも減ることになる。
様々な国の音楽を聴くことができ、小説を読むことができ、料理を食べることのできる日本は、大変恵まれた環境にあると思う。それが近頃では、音楽や小説の世界では「和モノ」ばかりに嗜好が傾きすぎているように感じる。確かに日本人による作品なら、その背景や心情を理解しやすいのは分かる。でもそんなに「楽」ばかりをしていていいのだろうか?我々とは全く違った文化や世界観を知り、理解する努力を捨ててしまえば、それは精神的な「鎖国」以外のなにものでもない。
ちょつと話が堅くなってしまったけれど、他人のことはともかく、「翻訳小説の落ち込み」というう問題に対しては、私個人にできることは翻訳小説を(できるだけ)「買って」読むこと。それとこのブログを通じて、素晴らしい作品を紹介することぐらいしかない。目玉の大きな元参議院議員ではないけれど、「できることからコツコツと」ってことですか。
写真は『IT』の箱の裏と表。上部の丸いのはマンホールのふた。
『グリーンマイル』にも箱入り版があった。