一言で言えば、阿部和重版『ニードフル・シングス』という感じ。作家自身の故郷である神町を舞台に、ロクデナシどもが跋扈し、ゴーントさんのような悪魔が登場せずとも町は破滅へ向かう。
町そのものを中心に据えた作品では、どうしても登場人物が多くなる。本作もページを開けば先ず目にするのは、ずらりと並んだ「主な登場人物」の一覧。これを見ただけでもかなりげんなりするが、読み進むうちにもっと恐ろしいことが分かってくる。出てくる人間のほとんどが、いやな奴ばかりなのだ。これほど多くの人物が描かれているにもかかわらず、読了するまでとうとう一人も好きになることができなかった。もちろん、いやな奴ばかりなのは作品的には必然性があるのだが、読むのが億劫になってしかたがなかった。
冒頭で殺人事件が起き、最後まで理由がわからないため、ミステリーとしても楽しめるし、戦後の日本の歴史のダークサイドを小さな町に凝縮し、戯画化した力作なんて、キャッチコピーみたいな褒め言葉も浮かぶ。でも面白さと辛さを天秤にかけたら、辛さの方が勝ってしまうなぁ。
シンセミア(上)
シンセミア(下)