易、シンクロニシティ、量子力学等を駆使して、推理小説における「偶然」の意味を追求した作品。推理小説的常套句に対するパロディのような作品でもある。たいへんな力作だとは思うものの、まだまだ甘いと感じた。
スタンリー・キューブリックの「シャイニング」は、ホラー映画のクリシェを徹底的に無視した(徹底的に軽蔑したと言うべきか)作品で、原作者のキングはもとより、ホラー映画を愛する人々の神経を逆撫でするような悪意に満ちた映画だ。とにかく見ていて腹が立つ。何が最も癪に障るかと言えば、従来のホラーの文法を完全に否定した上で、文句のつけようもないほどの極上のホラー映画に仕上げたキューブリックの手腕を、歯軋りしながらも認めないわけにはいかないことだ。キングのあの素晴らしい原作も、キューブリックの力を見せつけるための単なる素材として利用されているに過ぎない。
キューブリックがホラー映画に浴びせた哄笑を思うと、この作品のミステリー批判は生ぬるい。自己批判は他者からの批判よりは甘いということか。