ジム・トンプスンの代表作"Killer Inside Me"の新訳版。河出版に比べると下品度がアップした感じで、より生々しさが増したのではないかな。扶桑社の一連の作品と同じ、三川基好氏の訳だから違和感もないし。個人的にはp72の「よう、ルー。ようようよう」という箇所が、ギャングスタの人みたいで一番気に入ってる(河出版では単に「やあ、ル-」だけ)。『残酷な夜』に収録されていたキングの解説も納められているので、もう言うことなし。
ずいぶん本は読んだけど、ここが見せ場というところに来ると作者は必ず頭に血がのぼってしまうようだ。句読点がおろそかになってきて、やみくもに言葉を羅列して、瞬く星が深い夢のない海に沈んでいくなどという戯言を並べ出す。そして、主人公が女と寝ているのか土台石と寝ているのかも、はっきりしなくなる。どうやらその手の駄文がとても奥深い内容のものとみなされているらしい ― 見たところ、書評家の多くがそれを真に受けているみたいだ。だが、おれに言わせれば、作者はひどい怠け者で自分の仕事をまともにこなしていない。おれは、ほかのことはどうあれ、なまけものではない。だから、すべてを話すことにする。
キングも解説でこの部分を引用していますが、本当に「全てを話してくれる」のはトンプスンとケッチャムぐらいのもんですよ。キングも以前はそうだったんだけど・・・。しかもトンプスンの場合は作品が発表された時代(なんと1952年です)を考えると、それだけでも無条件の尊敬に値するというもの。人間のダークサイドを描いた最高の作品が文庫で読めるんだから、これを買わずにいったい何を買うの? というとこでしょう。