第1回児童文学ファンタジー大賞 受賞作。その時の受賞コメントで彼女は「望むと望まざるにかかわらず(大抵の場合、望まない、決して)溢れ出て くる意識下のエネルギーを、人間界に通用する表現に定着させるためには、それと拮抗す る意識の制御力が必要だ。」と語っている。この言葉、は梨木作品の本質を端的に表しているように感じられる。
私は日ごろから、作家は乱暴に分類すると2つのタイプに分けることができると思っている。一つは魂派で、このタイプは「意識下のエネルギー」に満ち溢れた作品を書き、成功すれば非常に感動的な作品ができるが、失敗した場合には物語りそのものが破綻してしまう危険性を持つ。こちらの代表格はスティーヴン・キング。もう一方は理性派で、その作品世界は綿密に構成されていて、パズルのピースがカチカチッとはまっていくような快感を与えるが、人の心の琴線に触れるような感動を呼ぶことはない。ジョン・グリシャムはこのタイプで、どの作品も安心して読めるが、『依頼人』でさえ読者を泣かせることができない。「意識下のエネルギー」と「意識の制御力」のバランスをとる事は、非常に困難なようで、たいていの作家はどちらかに流れてしまっている。梨木香歩もタイプ的には完全に魂派であるが、「意識下のエネルギー」に理性/知性のワクをはめる事に成功している、世にも稀な作家だと思う。そしてなによりもそのことが、私が彼女の作品に強く惹かれる理由なのだ。
さてこの『裏庭』だが、あまりにもテーマが深すぎて、物語がまとまりきれていないように感じられる部分もあるものの、日本のファンタジーの中でこれに匹敵する力作を見つけるのは困難なことだろう。