『ニューロマンサー』から7年後の世界。新米ジョッキー「カウント・ゼロ」ことボビー、「企業間移籍請負人」(?)ターナー、富豪に「箱造り」を探すために雇われたマルリィ。神が現れるようになった「マトリックス」の変化とは?「箱造り」の正体は?
『ニューロマンサー』のようなストレートな魅力は後退したものの、3つのストーリーが交錯する構成は「うまくなったねえ」と素直に感心。相変わらず言葉選びのセンスは最高だし、ジャッキーとリーアは「パープル・レイン」の頃のウエンディとリサみたいだし、フラー好きの私にとっては、ジオデシック・ドームに覆われたスプロールの光景を想像するだけでも楽しい。
で、やっぱり核となるのは「箱造り」のこと。解説に「"箱"が象徴するものは(中略)「新しい認識の手段」を、現代のガラクタから作ろうとするギブスンの作品そのものであり、"箱造り"とはギブスン本人なのです」とある。これって過去のレコードをサンプリングして自分たちの音を創るヒップ・ホップの手法と同じだし、そのルーツはデュシャンの「泉」にまで遡ることができる。(だからこれが「20世紀に最も影響力のあった芸術作品」に選ばれるわけなんで。)だから私には、「箱造り」が単にギブスンの作品だけでなく、「創造の神秘と美しさ」を表しているように感じられた。
ただやはり好き嫌いの分かれる作品だと思うので、よほど気に入った人以外は『ニューロマンサー』だけでいいんじゃないだろうか。
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カウント・ゼロ